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防災教育のおける理学的アプローチ ―チャレンジ防災講座にて

文責:林 叔克 (2008年10月11日) カテゴリ:2008年セミナー

9月11日にエルパーク仙台で行われた「チャレンジ防災講座」における講演内容を報告します。講演は2部に分かれ、1部は防災教育における理学的アプローチを講演し、2部は東北大学工学部災害制御研究センターの今村教授による防災教育における工学的アプローチの講演が行われました。
 いろいろな立場の方々が来られ、「そもそも、波ってなんだろう?」という問いかけから理科実験を行い、自然の仕組みを知ることで、自然災害に対して予測にもとづいた行動ができることを話しました。

チャレンジ防災講座とは?

東北大学大学院工学研究科附属災害制御研究センター主催で行われているセミナーで、地域の主体となる「学校」に着目し、「学校」と「地域」が協力して、地域での安全と安心を確保するには、どうすればよいのかを考えてることを目的に行われています。
チャレンジ防災講座の実施の目的は、以下の2つです。
・様々な活動事例や専門講師に話題提供していただき、まず「防災」について知ってもらうこと。
・学校や地域での基本的な「防災に対する考え」、「活動内容」、「展開の方向性」などについて意見を交換し、講座で得た知識を家族や地域の人たちにも伝えてもらうこと。

※詳しくはこちらをご覧ください。

講演内容の紹介

NPO法人 natural scienceでは大学や研究機関の枠組みをこえて、人が主体となって研究を行います。自然現象に対して、人が自らの感覚によって切り込み、「そもそも、なんでだろう?」と問いかけます。「どうしたら、わかるようになるか?」仮説をたて、検証のための実験が始まります。最後に「わかる」瞬間が訪れるまで、仮説の構築と検証実験を繰り返します。まず自分を納得させることが重要です。もちろん、主観的な納得に終わらせるのではなく、学術成果を発表することで、科学の歴史の体系にひとつの石を積み重ねます。

また研究成果を発表するだけではなく、仮説をたて、検証のための実験をするという科学のプロセスを教育の現場にいかすことで、科学的思考力が養われる教育プログラムを開発しています。

今日は、防災教育において、科学的な考え方がどのように役立つのかの話をします。

これからの防災教育

今までの防災教育では、怖い映像をみせて、地震は怖いから、というのを土台にしてきました。でも、こわがっいては、実際に地震がおこったとき、思考停止なったり、足がすくんでしまいます。必要なのは、自然の変化をとらえて、自分で考えて、行動することです。

そこで、理科実験です。理科実験というのは、仮説をたてて、検証のための実験を繰り返すのですが、実験条件をかえて、仮説・検証をおこなうプロセスの中で、自然の仕組みを発見します。このプロセスが自然の災害において変化を予測し、適切な行動をとる思考力の育成につながります。自然の仕組みという視点でみると、自然災害という自然現象はないです。自然現象がある程度以上のエネルギーになったとき、人間にとって、驚異になるという意味で、自然災害と、人間側の都合でよばれるわけです。自然災害は、自然現象のひとつです。

防災教育においても、自然の条件が変化したときに、予測に基づいて、行動することが重要です。この予測という部分は、自然の仕組みを知ることで初めて可能になります。この「自然の仕組みをしる」というのは、まさに理科実験が明らかにするところです。

今日は、自然災害の中でも津波という自然現象について話します。

実験手法と測定方法

「そもそも、波ってなんでしょうか?」さっそく、「波を閉じ込めて、実験しましょう!」波はどこまでも動いていくものですが、波を動きをみるために、この水槽の中で波をつくります。実験方法は簡単です。水をこの箱にいれて、傾けて、波を起こします。
最初は、いろんな周期の波がたっていますが、次第にゆっくりしたひとつの周期の波が波が左端から、右端、またターンして逆方向にはしります。この左、右、左という波のターンの回数を測定しましょう。10秒間に何回、波がターンするかを測定します。

水深が大きくなるに従って、どのように波のターン数が変化するか、測定しましょう。1cm、2cmと1cm間隔で水深を増していって、7cmまで波のターン数を図ります。

実験結果

水深が大きくなればなるほど、波のターン数が大きくなることがわかりました。水深が2倍になっても波のターン数は2倍にならなかったですよね。水槽の中の水をゆらすという簡単な実験ですが、4つのグループの実験結果を比較するとなにか法則が見えてきます。より正確に測定していくと、波のターン数は水の深さの平方根に比例することが見えてきます。重力が原因となって波が伝搬しているのですが、科学者としてもう一歩、波の本質に踏み込みたいと思います。

科学ってなに?

波はどうしておこるのでしょうか?水槽のなかで、一番エネルギーが低い状態は、水面が平行になっている状態です。水槽を傾けると、位置エネルギーが大きくなります。次に水槽をもとの水平の状態にもどすと、位置のエネルギーが運動のエネルギーに変わります。ブランコがいったりきたりする感じににています。
波が起こっている時、水面はもちろん一定ではありませんが、水面は一定の直線だと考え、この直線が右に左に傾くという運動しているとしてみます。そして、水全体の運動をみるのは、大変なので水全体の重心の運動を考えます。水面が右に左に傾くにしたがって、重心は右に左に運動します。このようにアバウトに考えて、全体の運動を大きく見ます。

一方、科学は厳密なものです。中でもニュートンから始まる力学の体系は、300年前からはじまり、法則と論理的な構成によって成り立っています。この力学体系にもとづいて、重心の運動を計算します。

重心の運動をx方向とy方向に分けて考えます。x方向の運動がわかれば、水全体の運動が様子がわかるので、x方向にたいして、運動方程式をたてます。運動方程式は、左辺には加速度、右辺には位置がきてます。この式からわかることは、運動の様子は水の密度によらないということです。たとえば、牛乳などの他の液体を使っても運動の様子がかわらないということがわかります。
 またこの式は単振動を表す運動方程式とみなすことが出来ます。つまり水の重心の運動はバネの振動のように往復運動をしていることになります。面白いのは、波とバネの運動という一見、異なった運動だけれども、運動の本質は同じということです。振動するバネとみると、振動数を計算できて、振動数は、水の深さと重力加速度をかけたものの平方根をとり、水槽の長さで割ったもになります。

このように自然現象に対して、おおざっぱな見方をして、本質的な要素を抜き出しモデルをたてました。厳密に計算することで、波の周波数は水深の平方根に比例するという式が導出できました。

自然現象に向けて

左右にターンを続ける波ですが、時間軸にそって、水槽を上図のように並べることを考えると、波が伝搬していく様子が表されます。波のターン数が大きければ、大きいほど波が速いということになるので、波の速さは水深の平方根に比例するという波の伝搬の原理がでてきます。
さて、波の伝搬の本質的な仕組みがわかったところで、自然現象の条件をあてはめてみましょう。チリ沖地震の際に発生した津波について考えましょう。

太平洋の平均の深さは4000mです。ここに先ほどの式を使って、波の速さを求めると、時速700kmで波が進行することがわかります。これは飛行機程度の速さです。チリから日本までの距離はわかっているので、日本までの到達時間は十数時間となります。このように水槽から津波まで、波の原理は同じです。原理を知れば、予測ができまます。水槽の中の小さな波が津波に見えてきませんか。

理科実験においては、手を動かして実験し、実験条件を変える中で、自然の仕組みを発見していきます。次に原理にもとづいて他の実験条件における予測も行います。この流れは、自然の仕組みを知ることで、自然の条件から次に何が起こるかという予測し、予測にもとづいた行動ができる土台になります。

会場からの質問

講演の後にたくさんのコメントと質問をいただきました。その中からいくつかを紹介します。

(コメント1)
理科実験が、ほんと楽しかったです。きっと子どもたちも楽しんでやるだろうと思います。今まで5,6年この防災チャレンジ講座に出てきたのですが、実験をしたのははじめてでした。やっぱり、手を動かして、目でみるというのは、いいですね。その後の話もスーとわかりました。大人も実験することによって、疑問もでてくるし、子供をおしえるときの面白さもわかる。知識として教えられるよりも、自分で手でさわって、体験しないとわからない。五感にもとづく実験が重要ですね。私が心配しているのは、宮城県沖地震の記憶が薄れていくことです。地震や津波という自然災害に対して、少しでも手でさわって、実感できるような体験が必要です。

(コメント2)
コンピュータシミュレーションをみせられても、なにが起こっているのか、よくわからないけれども、自分で手を動かして実験することで、そこでなにが起きているのかを自分でしることができますね。コンピュータやCGを使って、地震や津波を説明したりというよりも、理科実験の方がいいですね。

(質問)
水深が4cmから6cmになったときに、左から右にという波の流れだけではなくて、左右から波がやってきて、真ん中でぶつかるという水の様子がみられてのですが、どうしてですか?

水槽の中の波の動きを、すごくよく観察されていると思います。これはおそらく水槽の中の波の周期にはいくつかのモードがあって、左から右に波が運動するモードと、左右から真中に波が運動するモードの二つが見えているのだと思います。なぜそういったモードの波ができるかは、もっと実験してみないとわからないですね。でも予想外の発見でとてもおもしろい発見をされたと思います。

(質問)
防災教育において、他にどのような理科実験を考えてますか?

「そもそも、波ってなんだろう?」という実験に関しては、今回は水でしか実験しませんでしたが、牛乳を使ったり、片栗粉を溶かしこむなどして、液体の粘性や密度などの実験条件を変化させていけば、もっと面白くなると思います。水槽の大きさや形をかえてもいいですね。いろいろな実験条件があるなかで、本質的な原理はなにか、という探究がより深くできます。

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