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ヒトの運動制御におけるリズム生成のメカニズム

背景

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研究の大きな目的は、ヒトの認識を明らかにすることである。 ヒトの認識とは何か。 まず、われわれ人間は外界から五感を通して刺激を受ける。 そして、その刺激に対して、何らかの反応がある。 いま、五感のなかでも特に視覚について考えてみる。 すると、「何を見たのか」と、「どう反応したのか」というのは、客観的に分かることである。 しかし、いまここで見過ごすことのできない問題として、「どのように見たのか」ということがある。 この、「どのように見たのか」というのは、客観的には分からないことである。 これがいま認識と呼ぶものである。 では、この認識を知るためにはどうしたら良いだろうか。 認識が刺激と反応の間にあることから、客観的に分かる入出力から認識を明らかにすることができる。 いま、「何を見たのか」を入力、「どう反応したのか」を出力とする。 では、これをどのように実験したら良いだろうか。

目的

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まず思うのは、できるだけ簡単な実験にしたいということである。\par 簡単に、というのは、入力となる視覚情報や、反応方法を少なくしたいということである。視覚情報や反応方法が多いと、そこから認識を考えることは困難になるからだ。\par そこで、ある一定の速度で動く物体を追いかけるという実験を行う。一定の速度で動く物体の情報が入力となり、それを追いかけるということが出力となる。\par

実験手法

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実験は、すべてパソコン上で行う。円軌道上を一定の速度で動く赤丸(これをターゲットと呼ぶ)をマウスで追いかける。 マウスは、画面上では青丸として表示される。この青丸はトレーサと呼ぶ。 被験者には、「できるだけ、ターゲットに正確に合わせるようにしてください」と伝える。 ターゲットの速度は四種類で、0.1Hz, 0.3Hz, 0.5Hz, 0.7Hzの四種類。各周波数1回30秒間の実験を10回ずつ行う。

解析方法

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解析方法は、大きく二つに分けられる。一つ目はターゲットとトレーサの位置で、もう一つはトレーサの速度である。まずは、トレーサの速度から見ていく。

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トレーサの速度の解析方法として、まず、トレーサの速度の時系列を用いる。それが図7の左のグラフである。 横軸が時間で、縦軸がトレーサの速とターゲットの速さの差である。 赤い横線が、0の位置であり、0の時はターゲットとトレーサの速さが同じであることになる。 0より小さい場合は、トレーサがターゲットよりも遅く、0より大きい場合は、トレーサがターゲットよりも速いことを示す。 いま、ここに何か周期的な成分が含まれていないかと考え、フーリエ変換をした。それが、右のグラフである。 横軸が周波数で、縦軸がその強度である。すると、ピークが立っているのがわかる。 この実験結果は、ターゲットの速度が0.7Hzのときのものである。ピークがたっているのは、ターゲットと同じ周波数(f)と、その二倍の周波数(2f)である。 これと同じ方法でほかの周波数についても見てみる。

実験結果

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図8の黒い線は0.1Hz, 赤線は0.3Hzの結果である。0.1Hzではピークは見られない。0.3Hzでは、2fにピークが見られる。ちなみに、0.5Hzでは、fと2fにピークが出ていた。

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実験結果として、トレーサの速さの時系列をフーリエ変換すると、0.1Hzではピークは見られないが、 そのほかの周波数ではターゲットと同じ周波数、またはその二倍の周波数にピークが出ることが分かった。では、このピークは何を意味するのだろうか。

考察

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まず、時系列を用いて考えてみる。横軸が時間で、縦軸がトレーサからターゲットの速さを引いたものである。 赤線は、ターゲットが円周を一周する時間である。ターゲットの速さは一定なので、0である。 fのピークの意味は、ターゲットが一周する間にトレーサがターゲットよりも「速い」「遅い」(または「遅い」「速い」)と動いていることになる。 2fのピークの意味は、fの二倍ということで、ターゲットが一周する間に、 トレーサがターゲットよりも「速い」「遅い」「速い」「遅い」(または「遅い」「速い」「遅い」「速い」)と動いていることになる。

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つまり、これはターゲットが一周する間にに「速い」「遅い」(またはその逆)という動きを周期的に行っている、 つまり「速い」「遅い」というリズムをもってマウスを動かしていると考えられる。 よって、速度のフーリエ変換のfと2fにでたピークをリズムと呼ぶことにする。 しかしここで、このリズムがターゲットを追いかける際に生まれるものなのか考えなければならない。

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リズムが生まれる原因は2つ考えられる。 一つ目は、今回の実験のように、視覚情報があって、そこで運動制御をした場合である。 もう一つは、人間の手の運動をした場合である。

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仮説としては、人間の手の運動だけでもリズムは生まれると考えられる。 なぜならば、マウスを動かす時に、動かしやすい方向と動かしにくい方向があるからである。

実験方法

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基本的な実験方法は視覚追従実験と同じにする。今回、視覚追従実験と異なるのは以下の点である。 ターゲットを消した状態で、マウスを動かしてもらう。 実験方法は、まずはじめに普通の視覚追従実験で実際にターゲットを追いかけてもらう。 その後、ターゲットがない状態でマウスを動かしてもらう。

実験結果

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今回の、ターゲットがない場合の実験結果は、ターゲットがある場合の実験結果の速度のフーリエ変換のグラフを比較する。\par 黒い線がターゲットがある場合で、赤い線がターゲットがないときである。\par 0.1Hzでは、ともにリズムはでていない。0.3Hzではターゲットがあるときは2fのリズムがでているが、ターゲットがないときはリズムはでていない。\par 0.5Hz, 0.7Hzでは、ターゲットがある場合はf、2fのリズムがでているが、ターゲットがないときはリズムは出ていない。\par

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手運動しただけではリズムは出ない。つまり、ターゲットを追いかける、または合わせようとすることによりリズムが生まれることになる。\par では、リズムが生まれる意味はなんなのだろうか。\par

考察

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リズムは人間が能動的に生んでいるものなのか、それとも結果としてでるものなのか。\par 能動的に生んでいるとしたら、何かメリットがあるのか。 たとえば、今視覚追従の目的が「ターゲットにできるだけ正確に合わせる」ということであるから、リズムを生むほどターゲットの位置により多く合わせられるなどである。\par では、結果としてリズムが出ているとしたらどういうことだろうか。 円周上のある地点でターゲットと位置を合わせたなら、自然とリズムが出る。ということでまず、ターゲットとトレーサが重なる位置を調べてみる。\par

解析結果

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図20、図21が各周波数の解析結果である。\par 横軸が円周の位置で、赤線ごとに、1/2π, π, 3/2π, 2πである。縦軸はターゲットとトレーサが重なった回数である。0.1Hzから順番に見ていく。\par 0.1Hzでは、周期性がみられ、その周期は短い。\par 0.3Hzでは周期性は見られない。\par 0.5Hzでは、周期性が見られるが、0.1Hzのような短い周期ではなく、長い周期である。\par 0.7Hzでは周期性は見られない。\par

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解析結果をまとめたのが図22である。

考察

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ここで、認識の部分を考えてみたい。つまり、視覚追従実験をどのように見たらこのような結果になるのか、ということである。\par いま、入力の情報となるのは大きくわけて3つある。円周と、ターゲット(位置・速度)と、トレーサ(位置・速度)である。\par まずは、周期性があった0.1Hz, 0.5Hzを考察し、その後周期性が見られなかった0.3Hz, 0.7Hzを考察していく。\par

0.1Hz

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まず、0.1Hzでは短い周期があった。これは、トレーサとターゲットの位置がずれて、また重なるまでの時間間隔が大体同じであると考えられる。つまり、トレーサをターゲットの位置に合わせようとしているのではないだろうか。\par

0.5Hz

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次に、0.5Hzである。0.5Hzでは長い周期があった。ここから、円周上の特定の4点でターゲットとトレーサの位置が重なることが多いということがわかる。\par これは、円周の位置情報に依った合わせ方をしていると考えられる。\par

0.3Hz

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次に、周期性がなかった場合を見ていく。まず、0.3Hzの場合を考える。\par 0.1Hzと0.5Hzで周期性が出ているので、0.3Hzでも周期性が出ていてもよさそうであるが、周期性は出ていない。\par 今、0.1Hzと0.5Hzではターゲットへの合わせ方が違うと考えているが、0.3Hzの速さはそのどちらの合わせ方とも違う合わせ方なのではないだろうか。\par つまり0.3Hzというターゲットの速さは、ターゲットの位置にトレーサを合わせるには速すぎ、円周上の位置で合わせるには遅すぎる速さであると考えられる。 つまり、合わせ方が決まっていないと考えられる。

0.7Hz

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最後に、0.7Hzである。0.7Hzでも周期性は見られなかった。 0.7Hzの場合、ターゲットが速すぎるため、ターゲットの位置にも、円周上のある位置でも合わせることができない。 つまり、トレーサをターゲットの速度に合わせようとしていると考えられる。

今後の予定

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ここまでで分かったことは、ターゲットにできるだけ正確に合わせるという目的が一緒であっても、その合わせ方は異なるということである。 そしていま、合わせ方についての仮説を各周波数でたてた。 今後の予定としてまず、しなければならないことはターゲットとトレーサが合う位置の解析結果をフーリエ変換することである。 これにより周期性の有無と、どのような周期が含まれているのかが明らかになる。 その後、各周波数の仮説を見直し、その検証を行っていく予定である。

反省

反省として、発表後の質問に対してと、今発表について振り返ってみて何を感じるかの2点について考える。

質問

まず、発表後の質問は全部で4つの質問があった。内2つは実験系に関する具体的な質問であったため省略する。
残りの二つの質問について、正確にどう聞かれたかはうろ覚えなため、 自分が覚えている限りで記述する。
まず、ひとつめの質問の内容は「マウスを動かす大きさはどのくらいですか」というものであった。 マウスを指で動かすのと腕で動かすのでは、当然動かし方は異なり、 それとフーリエ変換のfと2fのピークが関係あるのではないかという質問であったと記憶している。 これに対して最終的に「A4サイズ位の大きさです」と答えた。他には、手の動きではリズム(fと2fのピーク) は出ないということを伝えたつもりである。

もう一つの質問は、同じ視覚追従実験をしている佐瀬君の実験と比べたときについての質問だった。
この質問も詳しくは覚えていないが、「佐瀬君の等速直線運動と、今回の円運動の実験で、ターゲットに合わせ方のメカニズムは違うのか」。という質問であったと思う。
このとき私は「わからない」と答えた。しかし、わからないわけがなかった。 今回の発表の最後でターゲットの速さの違いとそれに対する追いかけ方の違いについて仮説を立てた。 そこで、ある速さの時は「円周の情報に依った合わせ方をしている」と自分で言った。 円周の情報に依った合わせ方をしていると断言はできないが、それらしい実験結果は出ていた。 この、背景とも呼べる円周の位置情報は、佐瀬君の等速直線運動では視覚情報として無い。 つまり、入力となる視覚情報が違う以上、その点でメカニズムは違うと答えられたはずだった。

思い返してみると、質問に対してどう逃れるかを考えていたように思う。
別に、やましいことがあったわけではない。
ただ、質問に対してうろたえることだけはしたくないと考えていた。
うろたえるのは、自分が発表していることについて理解していないことになると思ったからだ。
しかしその結果、結局質問に答えられていなかった。
「分からない」と答えるのは理解していないことと同じだ。

全体の反省と感想

全体の反省は、他人に自分がやっていることを伝えることについてだ。
自分が人に何かを伝える。その際、どうすれば相手に分かるように伝わるのか、その方法を考えることは かなり、大変な作業だと感じた。
今回で言えば、伝えることは、自分がいままでやってきた研究についてである。
自分が今までやってきたことについて、なぜやっているのかという理由は自分ではわかっている(つもりでいた)。 しかし、それを他人に伝えることができなかった。自分が理由を分かっているというのは、 時系列をたどっていけば必ず過去があり、その過去を理由としていたに過ぎなかった。
自分の中ではつじつまが合っている。しかし、それをそのまま話すのは公の場ではできないことだ。
発表の流れは基本的に、背景から始まり、目的、実験手法、実験結果、考察、そして今後の予定という順序だ。 今回の発表は、自分がしていることについて自分が納得している起承転結を再構築するということだった。
その再構築がよくわからなかった。
最初は、発表の流れにそって、背景なら背景、目的なら目的と、書けばいい所に書くべきことを書いた。しかし、 それぞれで、どこまでを説明したらよくて、どこからが説明しなくてもよいのかが全く分からなかった。 だから、余計なところでくどくど説明したり、説明が足りなすぎて言ってる意味が伝わらなかったりと、 最悪だった。
たぶん、何を話したいのか、何を話せばいいのかわかっていなかった。

発表練習で「これを話したい」ということがあった事を指摘された。 うまく説明できないから、発表から省こうと思っていた部分だった。 だが、そこを発表に入れようと思った時、発表の流れを作るのが簡単なように思えた。 話したいことがあるなら、それを話せるような流れを作ればいいと思ったからだ。 もちろん、すべてを一人で完璧にできるわけではないが、少なくとも大きな流れは作ることができたと感じた。



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計測自動制御学会東北支部(2008.12)

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