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見えない土台づくり。「第9回体験型自然科学の教室」HP制作から見えたもの。

文責:大草 芳江 (2007年12月21日) カテゴリ:大草 芳江(23)

大変長らくお待たせいたしました。
「第9回体験型自然科学の教室」のご報告ページが完成いたしました。


参加者の方々をはじめ、教室の結果が気になって、わざわざ当サイトを訪れた方々、
大変長らくお待たせして、本当に申し訳ありませんでした。

公開がすごく遅れたのに、こんなことを言うのは何ですが、
今回の報告ページ制作を通して、natural scienceの次のステージが見えた気がしました。

どうして、どこに、なにを感じたから、次のステージが見えたような気がしたのか、
そのあたりを、今日はまとめてみようと思います。


これまで何度かご報告ページを見た方は、もしかすると気づいて頂けたかもしれませんが、
今回は構成を、(自分から見ると)がらり、と変えてみました。

何をどうがらり、と変えたかと言いますと、
4人の「かがくしゃ」を前面に出した構成にした点です。

科学教室なんだから、そんなの当たり前じゃないの?
確かに、言われてみればそうなんですけど、
でもそれができないなぁという感覚が、これまでずっとありました。


それはなぜか?


そもそも、「体験型自然科学の教室」は、

「池を覗き込み、森を駆け巡り、落ち葉の上を転がり、自然のささやきに耳をすまそう。
子どもにとっては、自然が教室です。学ぶことのワクワク感を、自然の中ではぐくみます。 」

という言葉に象徴されるように、子どもが五感を自由に発揮できる場づくりをひとつのねらいとしています。
会場に自然を選んでいるのも、多様な要素を内包している自然が、
自由に五感を発揮できる場として最適な空間だと考えたからです。
(室内に比べて、恣意性が低くなるのもポイントですね。)


そのため、科学教室ですが、科学の知識を与えることはしていません。

幼児~小学生の子どもにとっては、体験によって感じる"何か"(暗黙知)が、
その子どもの内面世界を構成する、基盤のひとつひとつになっていく重要な要素となっていきます。

言葉にはならなくとも、大人から見て理解はできないことでも、
五感で確かに感じている"何か"が、その子ども固有の世界の見方、個性になっていきます。

五感で確かに感じている"何か"は、ないと思えばないような、ふにゃふにゃしていてやわらかい部分なので、
少なくとも、それがそこにある(であろう)ということだけは伝えるために、
これまで、「証拠」写真を撮ったり、子どもの「証言」をとったりして、ホームページを制作してきました。


反対に、科学教室だけれども、あまり科学の要素は入れないようにもしていたのも、
教室のコンセプトであるこの暗黙知の習得と、競合することを恐れていたからです。

幼少期の段階で、教科書的な知識や「~するために~しなければならない」発想(形式知の習得)ばかりが先行すると、
その子ども本来の世界の見え方よりも、大人たちや世の中から見た世界の見え方ばかりが優先され、
子どもたちは自分の目で見ること、自分の心で感じること、不思議に思ったり考えたりすることをやめてしまいます。

形式知は、あくまで自分がその必要性を強く感じたときに、
自身の体験に根ざす暗黙知から変換して、はじめて自分の血となり肉となっていくもの。
その順番を間違うと、多くのものを失ってしまう気がします。

それなのに教室で、科学的要素をあまり前面に出しすぎてしまうと、
逆に、教科書的知識(形式知)が求められすぎてしまう場の前提が
できてしまうのではないかと、これまで非常に恐れていたわけです。
(むしろ科学者はいなくてもいいんじゃないか、という議論にまで、本気で発展したこともあるくらいです)



ここまでが、ちょっと長かったですが、前置きです。
次は、ではなぜ、「かがくしゃ」を前面に出せるようになったか、というお話です。
(注意:これはあくまで、広報としての私からの視点となります)

今思えば最初に気づいたきっかけは、リビング仙台さんからの
「水辺での遊び方を教えて欲しい」という取材依頼だったように思います。

これまで教室全体としてのコンセプトをお話しする機会は多くあったものの、
具体的なコンテンツを、具体的にお話しする機会はあまりなかったので、
(今思えばそこではじめて)コンテンツに自分の意識を注ぎました。
(上記理由で、それを無意識のうちに、避けていたところもあると思います)


具体的な水辺での遊び方(実験内容)については、
リビング仙台さんの記事がわかりやすいと思いますが、

はやしかがくしゃが考えた実験を、簡単に説明しますと、
①まずは、生き物たちを見つけてみる。干潟にはいろいろな種類の生き物がたくさんいる。(観察)
②プールに海水を入れ、つかまえてきた生き物たちを、どんどんいれてみる。(実験方法)

これだけです。

でも、その人口プールの中で観察できるのは、カニが魚を食べたり(食う-食われるの関係)、
魚同士が群れをつくったり(違う種類の魚同士なのに群れになったりします)と、
このように自然を切り出してくることで、生き物と生き物の関係性が見えてきます。

さらに、好きな石や貝などを入れたり、砂や葉っぱを入れたりして、
自分で好きな環境をつくることで(実験条件を変えると)、生き物と環境の関係性も観察できたりします。

それらが棲み分けなどの概念に発展するかもしれませんし、動物行動学的なアプローチや、
地学的なアプローチ、物理的なアプローチなど、いろいろな発展が生まれることが考えられます。

子どもたちは、たとえ知識で知っていることでも、目の前で起こるとやはり驚きますし、
かがくしゃを含め、大人にとっても、非自明なことが起こったりするので、子どもも大人も夢中になります。


ここでのポイントは、まず、ある切り出し方の軸(実験方法)を設定すると、
そこで起こる変化を観察することで、いつもとは違った世界の見え方ができるこという点です。

ここまでは、科学そのものの性質ですが、今回、何が一番の価値だったのかをよくよく考えてみると、

それは、子どもの「楽しい」という感情がドライビング・フォースとなって、
さらにその変化自体を、子ども自身の手で変化させていけるような、高い自由度が設定されていた点だと思うのです。

だから、「ふしぎだな」「どうして?」「そもそも何でだろう?」が出てくる前提ができますし、
大人から見てみても、「想定外」のことが生まれてくるため、場の恣意性が減っていきます。

この切り出し方であれば、子どもか大人かということも、ほどんど問題にすることなく、
「形式知の習得」とも競合することなく、場の恣意性も減ったところで、
「暗黙知の習得」をコンセプトとする場の設定が、成立するんだなという感覚をはじめて覚えました。

つまり、「かがくしゃ」も、子どもも、保護者も、同じものを見て感じて、
それぞれの階層で、それぞれ感じたり考えたりできるという場の設定です。


これらは、「かがくしゃ」がしんどくても知識に頼ることなく、
「そもそもなんでだろう?」と自然と向き合ったときに
はじめてでてくる、非常にシンプルな自然の切り出し方です。

つまり、この教室で「かがくしゃ」たちが、子どもたちに教えて「あげる」スタンスではないところで、
すべての階層でコミュニケーションを取れるための必要十分条件が見えてきたと言うことです。

自然の中でやる必然性と、子どもたちと共有する必然性が、やっと一直線上にのってきました。

子どもたちと共有できる階層が一段上がって、
やっと、「自然の中」という階層だけでなく、科学の切り口でも勝負できる階層にきたな、という感覚です。

タイミングの問題でもあるのでしょうが、折りしもこの階層に上がった時期と、
取材を受けた時期とが重なっていたということでしょう。


第8回体験型自然科学の教室「海の教室」


(この段階では、具体的にどのようにホームページへ反映すればよいのか、
迷っていたところだったので、それがまだまだ伝わりにくい構成です。)



以上のような経緯で、じわじわと新しい階層を認識し始め、
やっと、表現というところにまで、認識が届きはじめたのが、
「第9回体験型自然科学の教室」ご報告ページというわけでした。

ただ、「第9回体験型自然科学の教室」では、
前回の記事(かがくしゃへの手紙で見えてきた、カイゼン点。)にも書いたように、
足りない部分もよく見えてきました。

カメラマン・ホームページ制作担当の私の立場から見て、今回一番足りなかった情報は、
それこそ、これまで一番大切にしてきた、子どもたちの「生の声」でした。


次回の教室では、具体的な反省・提案として、

・まず、「かがくしゃ」それぞれの自然の切り取り方(つまり、ねらいと方法)を全体で具体的に認識すること、
つまり何をどう想定しているのかを、明確な形で共有すること。

・次に、natural scienceとして、ボランティア学生にも、その想定をきちんと伝えること。
かがくしゃ一人につき一人、お手伝いの学生をつけること。その際に、子どもたちの「生の声」を記録しておくこと。

以上、普通に考えてみると、当たり前のような反省と提案です。


今回ひと通り振り返ってみて、やっと、周りから見て意味がわかる階層が、問題になってきた気がします。
この二年間、その見えない土台をつくってきたんだなぁと思うと、そこを適当にしなくてよかった、その一言です。



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