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社会性昆虫の考察

文責:林 叔克 (2009年3月12日) カテゴリ:社会性昆虫の行動に関する研究(2)

生物は、何を最適化しているのか?
生物は、ある目的のために進化してきたのか?

  • 1. 目があるから、見える。
  • 2. 見るために、目がある。
  • 3. 見るためには、目が必要なので、目が生まれた。

ヒトは、合目的に考える傾向があるので、ともすれば、3のような考え方に陥る。 実際に、ある目的を達成するために、画像処理を行うディバイスを開発したりする。 しかし、生物はその進化の過程で、自然環境によって、種が選択された結果、 現在のような形態になっている。生物に目的はない。

さらに、しかし、人間が生物を研究する場合には、 生物が、進化の過程の結果、獲得した形態・性質が、何を最適化しているのかを考えるという方向性は重要である。

社会性昆虫であるトゲオオハリアリという種において、

  • 1. 働きアリは、すべてメスで卵巣を発達させ、雄を生むことができる。
  • 2. 女王アリは、ワーカーと接触することで、卵巣の発達を抑えることができる。
  • 3. 女王アリは、3時間以内に、すべてのワーカーと接触するためのパトロール行動をとる。

ここで面白いのは、女王アリが、支配的に女王とワーカーとの階層性を維持するのではなく、 ワーカーも階層性の維持に協力をするという行動をとることである。 つまり、ワーカーは自らの遺伝子を残すという利己的な行動をとることを抑制し、 コロニーの生産性維持のための行動をとるということである。 具体的な行動としては、ワーカーポリシング行動が知られており、 ワーカーが生んだ卵が、他のワーカーに破壊される。

コロニーサイズが大きくなると、女王アリは、パトロール行動をあきらめ、 ワーカーが産卵を始める。つまり、ワーカーは利己的な行動を取り始めるということである。 一方、ワーカーの産卵行動は、新たなコロニー形成につながるものであり、 より広い環境に適応するという種の繁栄にかなっている。 コロニーサイズによって、ワーカーは、コロニー維持のために働くことから、自己生産へとモードを切り替える。

個の生物がとる戦略を合目的にまとめると、

  • 1. 利己的な行動:自らの遺伝子を残す。
  • 2. 利コロニー的な行動:コロニーの維持のために労働する。
  • 3. 利種的な行動:より広く環境に適応し、種を存続させる。
しかし、それぞれが独立な行動というとそうではなく、コロニーの維持に労働力を割くことで、 女王アリが、自分と同様な遺伝子をもったワーカーを生産するので、 自らの遺伝子を残す、という意味においては、利己的な行動としてもとらえることができる。 コロニーの維持に労力を割いてきたワーカーが、 コロニーの増大とともに、卵を生みだすというのは、利己的な行動としてとらえることができるが、 同時に、オスの産卵は新しいコロニーの形成に対して、遺伝子がより広い環境に拡散することにつながるので、 利種的な行動としても、捉えることができる。

そして、これはあくまで、見方の問題で、それぞれの個体が合目的に行動しているわけでない。 社会性昆虫において、研究していることは、こういった戦略が、どのような個々の相互作用で、 結果、生まれてくるのかということである。 個々の相互作用に、因果関係の「因」の部分が存在する。 結果、進化の過程で、選択された「生物の戦略」が生まれる。

個々のアリのコミュニケーションの結果、コロニーという女王アリとワーカーのヒエラルキーが形成される。 見方として面白いのは、女王アリは支配的にコロニーを維持しているのではなく、 個々のワーカーもコロニーのヒエラルキーの維持に協力している、というところである。

参考文献:琉球大農学部 亜熱帯動物学講座 辻研究グループ
K. Tuji, K. Egashira, and B. Holldobler, Animal Behaviour, volume 58, page 337, (1999).



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