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異なる媒質の境界における電磁波と電子波
【2-2】電磁波に対する透過係数と反射係数の導出

文責:遠藤 理平 (2011年12月 5日) カテゴリ:仮想物理実験室(277)計算物理学(132)

異なる媒質の境界における電磁波と電子波の条件を、マクスウェル方程式とシュレディンガー方程式からそれぞれ導出します。

マクスウェル方程式の反射係数と透過係数

異なる媒質が接している場合の境界条件の導出を行います。 一様媒質中での電磁波の平面波は「【2-1】異なる媒質の境界における波動の一般論」で示したとおり、

(2-2-1)

で与えられます。\mathbf{A}はベクトルポテンシャル、\mathbf{k}は波数ベクトルで、 「【1-1】一般解の表式と平面波」で示したとおり、波数ベクトルの方向と電磁波の進行方向と一致し、ベクトルポテンシャルの向きは進行方向と垂直方向です。また、 媒質の情報は、波数ベクトルと角振動数との関係を表す分散関係

(2-2-2)

の中に現れる屈折率nを通じて平面波に取り入れられます。 一様な媒質中を伝搬してきた電磁波が異なる媒質の境界面に差し掛かると、透過波と反射波とに分けられます。 異なる媒質が接している状況を考えるのですが、電磁波の反射波や透過波の性質は、ベクトルポテンシャルの振幅の向きによって異なることが知られています。 このことを調べるために、下図のように図の左右をz軸、上下をx軸とし、画面に垂直方向がy軸とします。

z=0が媒質の境界を表し、z<0が誘電率psilon_1、透磁率\mu_1の媒質1で、z>0が誘電率psilon_2、透磁率\mu_2の媒質2とします。 黒矢印を波数ベクトルk、すなわち電磁波の進行方向とした場合、 任意のベクトルポテンシャルは波数ベクトルと垂直な2軸、y軸方向とz-x面内の垂直方向に分解することができます。 つまり、

(2-2-3)

と表せます。\mathbf{A}^{(s)}\mathbf{A}^{(p)}は、それぞれベクトルポテンシャルの y軸方向成分とz-x面内で波数ベクトルと垂直方向成分を表し、S偏光P偏光と呼ばれています。 媒質間の境界条件を導出するために、各媒質における右進行波と左進行波を添字の12で分けます。 媒質1内でのベクトルポテンシャルを

(2-2-4)

と表し、同様に媒質2でも、

(2-2-5)

とします。\mathbf{A_{11}\mathbf{A_{12}}\mathbf{A_{21}\mathbf{A_{22}は式(2-1-1)~(2-1-4)を用いてx,y,z成分を具体的に次の通り表すことができます。

(2-2-6)

(2-2-7)

式(6),(7)において、a_{11}^{(*)}a_{12}^{(*)}a_{21}^{(*)}a_{22}^{(*)}は、各媒質における左右進行波のs偏光とp偏光の振幅を表します。未知の変数は上記の4つに加えて、	heta_1	heta_22つです。つまり、6つの変数の関係を表す6本の方程式があれば完全に解けることになります。 6つの変数の関係式はマクスウェル方程式から導かれる境界条件

■電場と磁場の強さが、境界面と平行成分で連続する → \mathbf{E}_{1\parallel}=\mathbf{E}_{2\parallel}\mathbf{H}_{1\parallel}=\mathbf{H}_{2\parallel}
■電束密度と磁束密度さが、境界面と垂直成分で連続する → \mathbf{D}_{1\perp}=\mathbf{D}_{2\perp}\mathbf{B}_{1\perp}=\mathbf{B}_{2\perp}

から導出することができます。

電場の連続条件から

電場はベクトルポテンシャルから

(2-2-8)

で得られるので、領域1と2の電場はそれぞれ

(2-2-9)

(2-2-10)

となります。 電場の境界面と並行成分が任意の時刻tで、すべてのx,yで成り立つ条件、\mathbf{E}_{1\parallel}(x,y,z=0\ ;\,t)=\mathbf{E}_{2\parallel}(x,y,z=0\ ;\,t)となるための条件を考えます。 つまり、x成分とy成分が連続であればよいということになります。 初めにy成分の連続性を考えます。 任意のtで成り立つためには、\omega_1=\omega_2が必須で、

(2-2-11)

となります。さらに任意のxで成り立つためには式(2-1-1)~(2-1-4)を考慮すると

(2-2-12)

(2-2-13)

が成り立つはずです。 式(12)は入射波と反射波の波数ベクトルの大きさは変化がなく、入射角と反射角が一致することを意味します。 また、式(13)はx軸上の任意の点で境界条件を満たすための条件となっていて、入射角と透過角との関係法則スネルの法則と呼ばれます。つまり、スネルの法則は異なる媒質間に於いて、入射波と反射波が任意の時刻で矛盾なく接続されるための条件であることがわかります。 以上から、

(2-2-14)

が成り立ちます。式(14)はS偏光の振幅に対する条件の一つとなっています。 同様に電場のx成分が任意のx,yで一致するためには、

(2-2-15)

を満たす必要があります。 式(15)はP偏光の振幅に対する条件の一つとなっています。

電束密度の連続性

電束密度\mathbf{D}の境界条件は、境界面上で任意のx,y\mathbf{D}_{1\perp}(x,y,z=0\ ;\,t)=\mathbf{D}_{2\perp}(x,y,z=0\ ;\,t)が成り立つことです。 「【0-2】本稿で取り扱う基礎方程式」で示した電束密度と電場の線形関係\mathbf{D}=psilon_0psilon\mathbf{E}を仮定すると、電束密度のz成分から

(2-2-16)

が導出されます。波数と屈折率との関係k_1=n_1k_0\ , \ k_2= n_2 k_0k_0は真空中の波数)を用いると、式(13)のスネルの法則は

(2-2-17)

と表すことができ、式(17)から

(2-2-18)

が導かれます。式(18)もP偏光の振幅に対する方程式となってます。 以上より、電場と磁束密度の連続条件からS偏光とP偏光に対する振幅の関係式(式(14),(15),(18)の3つ)が導かれました。

磁束密度の連続条件から

次に磁束密度の連続性を考えます。 磁束密度\mathbf{B}はベクトルポテンシャルから

(2-2-19)

で得られるので、電場のときと同様成分ごとに書き下します。 媒質1では

(2-2-20)

となり、媒質2では

(2-2-21)

となります。 磁束密度\mathbf{B}の境界条件は、境界面上で任意のx,y\mathbf{B}_{1\perp}(x,y,z=0\ ;\,t)=\mathbf{B}_{2\perp}(x,y,z=0\ ;\,t)が成り立つことです。 磁束密度のz成分から

(2-2-22)

が得られ、式(13)のスネルの法則を適用すると

(2-2-23)

となります。これは式(14)と同じです。

磁場の強さの連続性から

最後に磁場の強さ\mathbf{H}の連続性を考えます。 電束密度同様、「【0-2】本稿で取り扱う基礎方程式」で示した磁束密度と磁場の強さの線形関係\mathbf{H}=1/\mu_0\mu\mathbf{B}を仮定すると、磁場の強さのx成分から

(2-2-24)

が得られ、k_1=n_1k_0=\sqrt{\mu_1psilon_1k_0}\ , \ k_2=n_2k_0=\sqrt{\mu_2psilon_2k_0}k_0は真空中の波数)を考慮すると

(2-2-25)

となります。また、磁場の強さのy成分から

(2-2-26)

が得られ、x成分と同様

(2-2-27)

と変形できます。ただし、式(27)は式(18)と同じになります。

S偏光とP偏光の振幅の関係

これまでの結果を整理すると、 S偏光の振幅に関する関係式は式(14)と式(25)から

(2-2-28)

となり、 P偏光の振幅に関する関係式は式(17)と式(20)から

(2-2-29)

となります。式(28)と式(29)をみると、媒質の性質を表す誘電率psilonと透磁率\muは、必ず\sqrt{psilon/\mu}の形で現れていることがわかります。 物質の性質を表す新たな物質定数を

(2-2-30)

と定義します。Zインピーダンスと呼ばれ、異なる媒質間の境界面での振る舞いを決めるパラメータになります。 ただし、インピーダンスの単位はオーム(\Omega)で、Z_0= \sqrt{psilon_0/\mu_0} \simeq 120\pi[
m \Omega]は真空のインピーダンスです。 式(32)をインピーダンスを用いて整理すると

(2-2-31)

となります。 式(33)は、S偏光,P偏光に関して2本ずつしかないため連立方程式で解くには足りないように思えますが、 初期状態を適切に与えることで境界面での振る舞いを記述することができます。

透過係数と反射係数

式(33)は境界面における各偏光の振幅の関係を表しているので、 初期状態を適切に与えることで境界面がひとつしかない場合の透過係数と反射係数を計算することができます。

上図を見ても分かる通り、a_{22}^{(*)}=0であるので、 a_{11}^{(*)}=0を入射波として考えた場合、 a_{11}^{(*)}に対するa_{12}^{(*)}が反射係数、 a_{11}^{(*)}に対するa_{21}^{(*)}が透過係数と呼ばれます。 反射係数と透過係数の具体的な表式は

S偏光の反射係数

(2-2-32)

S偏光の透過係数

(2-2-33)

P偏光の反射係数

(2-2-34)

P偏光の透過係数

(2-2-35)

となります。Z_1\ , \ Z_2は式(30)で定義したインピーダンスです。 興味深いのは反射係数、透過係数には物質定数である誘電率psilonと透磁率\muが必ず比の形、すなわちインピーダンスだけに依存して、積の形である屈折率(n=\sqrt{psilon\mu})には依存しないということです。 つまり、電磁波の反射・透過を議論する場合にはインピーダンスだけを考えればよいということです。

透過係数と反射係数の関係

式(34)から透過係数と反射係数の関係式を導出することができます。

(2-2-36)

S偏光とP偏光で異なっているのがわかります。


反射係数と透過係数の計算結果

内部反射と外部反射

境界面における反射や透過を議論する際、 屈折率の大きな媒質から小さな媒質への場合と、逆に屈折率の小さな媒質から大きな媒質への場合で、 反射波・透過波の振る舞いが大きく異なります。

上図は上記の2つの状況の模式図です。 図中にも書いてますが、n_1<n_2外部反射n_1>n_2内部反射と呼ばれています。 外部反射と内部反射に対して、S偏光とP偏光の透過係数と反射係数の角度依存性を計算します。 通常の絶縁体(誘電体)の場合\mu=1なので、Z=1/nとおくことができます。 これは、フォトニック結晶中の光を議論する際には一般的な近似です。 本節では、外部反射n_1=1.0, \ n_2=2.0、内部反射n_1=2.0, \ n_2=1.0における反射係数と透過係数をプロットした結果を示します。その際に、反射係数r^{(*)}と透過係数t^{(*)}

(2-2-37)

と、大きさと位相に分けてプロットします。

外部反射のS偏光とP偏光の振る舞い

外部反射におけるS偏光の反射係数の位相は、角度に依存せず\phi^{(s)}_r=\piとなっていることがわかります。 これは入射波に対して反射波の位相が反転していることを意味します。 一方、P偏光にはブリュースター角	heta_Bと呼ばれる反射がなくなる角度があります。 またブリュースター角の前後で、反射波の位相に変化があることがわかります。

内部反射のS偏光とP偏光の振る舞い

内部反射の特徴は、臨界角と呼ばれる角度以上で反射係数の大きさが1となる全反射が存在することです。 これは偏光によらず存在します。興味深いのは透過係数の大きさの最大値が臨界角であることです。

特別な入射角度

ブリュースター角の導出

ブリュースター角は式(34)の反射係数r^{(p)}の分子が0となる角度で定義されます。 具体的には、

(2-2-38)

となります。絶縁体などの\mu=1の場合には、

(2-2-39)

となります。

臨界角の導出

臨界角はスネルの法則から導出することができます。 スネルの法則から領域2における角度	heta_2

(2-2-40)

で得られます。n_2<n_1の内部反射では、ある角度以上では式(40)のルートの中が負になることがわかります。 つまり、\cos	heta_2が純虚数となる角度が存在します。 これが臨界角と呼ばれています。 具体的は、式(40)のルートの中が0となるの条件から

(2-2-41)

と得られます。 ブリュースター角と臨界角の大小関係は式(39)と式(40)から、必ず	heta_B<	heta_Cとなります。

透過係数の大きさ

臨界角とブリュースター角における透過係数の大きさは、

(2-2-42)


となります。

C言語プログラムソース

/*
マクスウェル方程式による境界面による反射係数と透過係数
(公開:2011/12/06)
*/
#include <math.h>
#include <stdlib.h>
#include <time.h>
#include <fstream>
#include <sstream>
#include <iostream>
#include <string>
#include <cstdio>
#include <iomanip>
#include <stdio.h>
#include <complex>
#if defined(_OPENMP)
  #include <omp.h>
#endif
#if defined(_MSC_VER)
  #include <direct.h>   // Windowsフォルダ作成用
#elif defined(__GNUC__)
  #include <sys/stat.h> //  UNIX系ディレクトリ作成用
#endif
using namespace std;

const double PI = acos(-1.0);
const double e = 2.7182818284590452354;
const complex<double> I = complex<double>(0.0,1.0);
const double c = 2.99792458E+8;
const double lambda0 = 500.0E-9;
const double mu0 = 4.0*PI*1.0E-7;
const double epsilon0 = 1.0/(4.0*PI*c*c)*1.0E+7;
const double k0 = 2.0*PI/lambda0;
const double omega0 = c * k0;


const double theta_s = 0.0, theta_e  = 90.0;  //<------------角度を指定
const double theta_k = 0.1;
const double N0 = 1.0;
const double N1 = 2.0, N2 = 1.0;//屈折率

double Z1 = 1.0/N1, Z2 = 1.0/N2;//絶縁体を仮定

string folder = "Maxwell_2-1";//作成するフォルダ名
char str[200];
int main(){
  #if defined(_MSC_VER)
    _mkdir(folder.c_str());   // Windowsフォルダ作成
  #elif defined(__GNUC__)
    mkdir(folder.c_str(), S_IRWXU | S_IRWXG | S_IRWXO); // UNIX系のディレクトリ作成
  #endif
  #if defined(_OPENMP)
    omp_set_num_threads(8);
    cout << "OpenMPを利用します(最大スレッド数:"<< omp_get_max_threads() << ")" <<  endl;
  #endif

  string S_s = folder + "/S.data";
  ofstream ofs_s( S_s.c_str() );
  string S_p = folder + "/P.data";
  ofstream ofs_p( S_p.c_str() );
  
  ////////////////////
  //角度ごとに計算
  ////////////////////
  for(double th=theta_s; th <=theta_e; th+=theta_k )
  {
    double Theta= PI/180.0 * th;     //弧度法へ変換
    char str[200];
    double cos1 = cos(Theta);
    double sin1 = sin(Theta);
    double sin2 = N1/N2 * sin1;
    complex<double> cos2 = sqrt( complex<double>(1.0,0.0) - complex<double>(pow(sin2,2),0.0));
    complex<double> rs = (-Z1*cos2+Z2*cos1)/(Z1*cos2+Z2*cos1);
    complex<double> ts = (2.0*Z2*cos1)     /(Z1*cos2+Z2*cos1);
    complex<double> rp = (-Z2*cos2+Z1*cos1)/(Z1*cos1+Z2*cos2);
    complex<double> tp = (2.0*Z2*cos1)     /(Z1*cos1+Z2*cos2);
    ofs_s  << th  << " " << abs(rs) << " " <<arg(rs)/PI  <<  " " << abs(ts) << " " <<arg(ts)/PI  << endl;
    ofs_p  << th  << " " << abs(rp) << " " <<arg(rp)/PI  <<  " " << abs(tp) << " " <<arg(tp)/PI  <<endl;
        
  }
}

ファイル

マクスウェル方程式による境界面による反射係数と透過係数


【目次】シュレディンガー方程式とマクスウェル方程式



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